北海道札幌市といえば、横浜、名古屋や大阪に次ぐ200万人の人口を持つ日本第5番目の大都市だ。

人の往来は札幌駅、大通、すすきのを結ぶ地下空間通路ができて以来、1日で200万人以上にもなる北海道の中心だ。札幌の玄関口である札幌駅と文化の中心地大通にスクールを新規に開校するあたりは、やはりなかなか見る目がある持ち主だ。

物販ではなく、サービスを売るビジネスなのだから、普通、もう少し中心をはずれた場所でスタートして、ある程度目鼻がついたところで、一等地に切り込んでいくのではないだろうか。最初からズバリと駅ビルに教室を置くあたりは、よほど人脈があるか、運がいいかのどちらかである。

Atlasの生徒はというと、そのアットホームな対応から生徒もみんな友達感覚で、大手の英会話スクールのような堅苦しさはそこには感じられない。とはいっても、完全予約制で、マンツーマンで毎回払い。Atlasのシステムは、20年間、一度も絶対に壊さなかった。当然のように利幅は20年間ずっと低いままだ。

ピーター・ヨネナガ氏は語る。

「私は英会話スクールで生活していこうなどと、本気で考えたこともなかった。スタッフ仲間みんなで生活していくだけ食えればよかったんですね。だから5年くらいは私の給料はゼロでした。みんなで一緒に飯を食べにいって、それを経費で落とす。そんな感じでした。こういう状態が5年以上続きました。今考えても、儲けようという気がなかったんですね。普通は、儲けようと思って会社を作ったり、事業を手掛けたりしますが、Atlasでは、スタッフがおもしろいと思うこと、楽しいことをできる場があって、家賃を払うとか、なんとかその場で維持できることを最低条件で考えていたんですね」

なんとおおらかな経営手法だろう。株式上場も可能というレベルにまで事業が拡大しており、ピーター・ヨネナガ氏といえどベンチャー・マインドがゼロでは収まりがつかなくなっているのは時間の問題だ。しかし、そんなヨネナガ氏にとって、限りなく自由で、精神的に負担が少なかった時代は終わったようだ。

60分2,500円の毎回払いでネイティブ講師とマンツーマンで楽しく会話できるというAtlasのシステムは、明らかにそれまでの日本の英会話スクールの盲点をついたものだった。

口コミサイトなどで生徒が増え始め、さらに生徒が生徒を紹介して連れてくる。そして、他の大手英会話スクールのように、高いレッスン料を払わされ、数回通っただけでその後はゴースト会員（籍だけ置く会員）になり、教室に来なくなる「ゴースト会員」も他スクールと比べて極めて少ない。生徒数はある時期から、倍々で増え始めたのである。

初年度の2003年には早くも会員数1,000人を超えた。この数字を前にして、ピーター・ヨネナガ氏にとって成功とは呼べない概念があったようだが、教室が2つになった2004年も生徒数は1000人から3000人、というふうにうなぎ登りに増えていった。ちなみに2012年にはついに生徒数が2万人を超えている。

会員数が1000人だった頃は、生徒全員の顔と名前と英語レベルを把握していたようだが、2007年に1万人を超えるともはや手におえず、駅前近くにある英会話スクールの前で先生らしい外国人を見つけては声をかけて講師をリクルートし始めた。

札幌大通LSでは、ブース数が少なくもうレッスンを受けるスペースがないからといって、せっかく入会してくれた生徒たちにマンツーマンレッスンを受けるスペースは確保してあげたい、という気持ちが強かったようだ。それで、札幌駅直結のビルを借りあげて2校目の札幌駅前LSを開校することになった。

現在の札幌大通LSと札幌駅前LSの大きさはどちらも約30坪程度。もはや、堂々の構えである。それだけのスペースを借りるには、それなりの保証金も必要になった。銀行からはお金を借りずに、生徒から集まる月会費などを集め工面した。ここでも生徒は順調すぎるほど順調に集まった。現在のように、本格的なホームページがあり、マーケティングをこなしてきたわけでもない。

その後も、Atlasは現在までほぼ前年度倍々で成長を続けることになるのだが、それを上回る勢いで生徒が入会する不思議な吸引力があったのだ。